レビュメモ!

映画・舞台・本のレビューをネタバレあり&ネタバレなし両面から。映画と漫画と美味しいものがあれば大体しあわせ。

「シェイプ・オブ・ウォーター」ネタバレなし&ネタバレあり感想 マイノリティの反逆とロマンス

『人間と魚人の恋』…恋?
私事ですが映画を観る前、美容室に行ってまして。
美容師さんに「今日はこのあとなにされるんですか?」と聞かれたので「シェイプ・オブ・ウォーター」を観に行きますと答えたところ「なんか、人間と魚人のラブストーリーでしたっけ?『シザーハンズ』みたいな感じですかね?」と言われ多分違うと思いつつ「ポスターみるとけっこう魚ですよね?ジョニーデップのようにはいかない気がしますねー」「ですよね、どうなんでしょうねあの魚とのラブストーリーって」という会話をしたのですが。
見終わっての感想としては『恋愛というよりは生殖本能を伴う《番》が出会ったみたいな感じ』だなと思いました。
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2018年/アメリカ/124分/サリー・ホーキンス/マイケル・シャノン

80点

個人的には好きな映画ですが、好き嫌いが別れそうだなともすごく思うので、アカデミー作品賞受賞と聞き「そうなんだ?」と。
音楽賞、美術賞は納得です、全編通して音楽と映像、ポスターにもなっているシーンもとても綺麗でした。


あらすじ

舞台は1962年、冷戦下のアメリカ。
幼い頃の虐待で声を出せないイライザは、政府の極秘研究所で清掃員として働いている。
夜勤だから就寝時はアイマスク常備。
夜起きて風呂に入り、卵を茹でサンドイッチを作って靴を磨いて気の良い隣人、画家をしているジャイルズの様子を見、ショーウインドウの赤い靴に後ろ髪ひかれながらもバスに乗り出勤。
職場には親友の黒人女性、陽気なゼルダもいて、基本聞き役ながらも手話で会話も出来て…。
その繰り返しの単調な毎日。
しかしある日、研究所に秘密裏に運び込まれた異形の生き物(魚人)が運び込まれイライザの日々は一変。
声を奪われたイライザと言葉をもたない『彼』は視線やジェスチャー、手話や音楽を通じて次第に心を通わせていく。
赤い靴を履き清掃の仕事をするイライザ。
しかしある日、『彼』が残酷な実験の犠牲になることを知ってしまい…。



ネタバレなし感想


『美し過ぎない、肉欲ともなうロマンスファンタジー』
舞台が1960年代ということもあり、全体を通して色調やセット、小道具がレトロで異世界感、お伽噺感が漂っている為、魚人の彼の異形っぷりがギリギリ馴染んでいた印象。
冒頭がそれこそ「愛と喪失の物語」を語る、みたいなジャイルズのナレーションで始まり、イライザの部屋と眠るイライザ自身が水中浮遊をしている映像でファンタジー要素強めだったので、「異種間の、許されない美しいラブストーリーなのかな」?と思ったのですが。


『全編に漂う性の匂い』
冒頭の、イライザの水中浮遊が徐々におさまり、仕事に出るためにイライザが目を覚まし、物語は始まります。
目覚め、入浴、茹で卵、靴磨き、バス、出勤…というルーチンワークを繰り返し映像で流して「ヒロインは大きな不満はないけれど退屈な毎日を過ごしてるんだろうな」と感じさせるのですが、ルーチンワークのひとつに「入浴時に一人でいたすこと」が含まれていて、満たされてないんだろう感が生々しいです。
このシーン以外にも軽口で下ネタがちょこちょこ入ったりもします。
人魚と人間じゃなくて魚人と人間だぞ!
お伽噺の登場人物にも性欲はあるぞ!
ヒロインは年若い美少女じゃないぞ!
と、世間一般的な萌え要素を取り除きまくって作られてます。


『恋人というよりは番?』
捕らわれた魚人の『彼』(アマゾンでは現地住民から神のように崇められていたらしい)は、冷徹な現場トップの警備員、ストリックランドに「醜いもの」とされ虐げられますが、指を2本食いちぎり一矢報います。
が、それでますます目の敵にされ虐待されるという悪循環。
イライザは彼に同情し興味をもち、茹で卵を差し入れしたり音楽を聴かせたり手話で簡単なコミュニケーションをとったり、挙げ句にノリノリでダンスをはじめ、モップを誤って滑らせ『彼』のいる水槽にぶち当ててしまったりして結構のびのび好き勝手してます。
イライザは映画館の上のアパートに住んでいて、隣人ジャイルズも映画や歌、ダンスを見るのが好きとあって一緒に観賞を楽しんだり簡単なタップを真似してみたりと、ちょっと夢見心地な部分があり、魚人に好意を持つ下地がある感じです。

『彼』は言葉をもたない、声のない私を特別な目で見ない…‼

『彼』の姿はなかなか魚々しいですが、見慣れてくるとちょっとかっこよく見えてきました。
シンゴジラ第二形態が、最初は気持ち悪いと思うのに見慣れてくると「可愛いかも」と思えてくる感覚に近い…?

イライザと『彼』は肉体関係も持つのですが、恋愛というより生き物の本能的に番を求めてるのかな?という感じの魚人→イライザと、『愛する人と結ばれた喜び』というより『性の悦び』に目覚めたようなイライザ→魚人。
性的な解放、もイライザがありなままの自分をさらけ出したということなのか…な?

純愛=プラトニックとするならイライザと『彼』は純愛ではないのですが、余計なしがらみなくただ求め合っているのだと考えるととても純粋ではあります。


『よく言われるけど、一番怖いのは人間です』
声を出せないイライザ、黒人の親友、ゲイの隣人、清掃員という仕事、写真に取って変わられそうな手書きイラスト、魚人な『彼』という虐げられる側と、虐げる側代表レイシスト全開なストリックランド。
清々しい悪役っぷりです。
わかりやすく高圧的でイライザに「美人じゃないが好みだ、呻き声が聞きたい」とか言っちゃうわかりやすくヤバいヤツなのですが、部下を締め付けながらも自分も上司に頭が上がらないし読んでる本は『積極的考え方の力』だし「成功の証ですよ、お客様にこそふさわしい」とキャデラックを勧められてその気になって買っちゃうし何だかんだ苦労はしてるようです。
しかし食いちぎられた指を手術で縫合するもうまくいかず、もともとヤバかったのに指がどんどん変色して異臭を放つようになるにつれ更に狂気へひた走ります。
魚人なんて人間が手を出さなければ指を噛みちぎることもしなかったのになぁ。


『すごく…「映画的」です』
作品全体に漂う異世界感、ムーディな音楽、弱者を虐げる強者、突然のミュージカル調、弱者の反逆、駆け引き、暴力、余韻の残るラスト。
すごく映画的な映画だなと感じました。
ミュージカル調の時(イライザの妄想)、イライザが歌い魚人とダンスするのですがそこはちょっと笑ってしまいました。
でも妄想の中だけでも歌が歌えて、イライザ良かった。



以下、ネタバレあり感想






 


マイノリティの反逆
軍事利用のため『彼』が解剖されてしまうことを知り、イライザはジャイルズに彼を助けたいと協力を請いますが、断られます。

ジャイルズは自分をリストラした会社への再就職を目指しイラストを書き上げ持っていくも冷たくあしらわれ、思いを寄せるダイナー店主へ気持ちを告げるもこっぴどくフラれてしまい、更に黒人客のイートインを当然のこととして断る店主を見てショックを受けてしまいます。
ジャイルズは考え直し、イライザと共に魚人救出を計画。
車をペイント、通行証を偽造してクリーニング業者を装い魚人を車に乗せ自宅へ引き取ろうというもの。
決行日当日、ソ連のスパイであり魚人を美しいものとして認識し解剖するのではなく助けたいと考えていたホフステトラー博士と協力することになります。
不穏な空気を感じ取ったゼルダはイライザを心配し止めようとしますが、親友の強い決意に最後には手を貸します。
ゼルダめっちゃいい人。

無事に救出成功する訳ですが、作戦決行時にストリックランドの新車のキャデラックに派手にぶつけて壊してしまったり、素人の犯行なのに研究所の見解は『少なくとも10人以上のプロ集団による綿密な計画による犯行』でフフフ。
ちなみに画家であるジャイルズは魚人の『彼』を「なんて美しいんだ」と評します。

イライザは自分の部屋の浴槽に『彼』を匿い、束の間の蜜月を過ごすも衰弱していく彼を天気予報が雨である10日に、運河から海に還そうと決意。

イライザが仕事に行っている間、ジャイルズが居眠りをしている隙に『彼』は浴槽を抜け出し、居合わせたジャイルズの猫に威嚇され食べてしまいます。 
猫の叫びで目を覚ましたジャイルズ、ペットの猫が喰われててビックリ。
『彼』も驚いたのか部屋を飛び出し、その際に爪でジャイルズの腕を傷つけてしまいます。

ジャイルズから連絡を受けたイライザが帰り、『彼』を映画館で発見。
部屋に戻り、謝罪の意味なのか傷つけてしまったジャイルズの腕をさすり、頭に手を置く『彼』。

翌日、ジャイルズの傷は完治。
心細かった頭髪も少しだけどフサフサに!

どうやら特殊能力があった模様。

魚人を誘拐され、上司に「36時間以内に見つけ出さないとお前の存在消すから」と言われてしまったストリックランド。
怪しいと疑っていたホフステトラー博士を張り込んだところ、ロシア語でヤバ気な奴等と話してる=ソ連のスパイだ!あいつが魚人を奪ったんだ!とホフステトラー博士を結構グロく拷問。
ゼルダが怪しいと自宅侵入。ゼルダは口を割りませんが、夫が盗み聞きしていた電話の内容を喋ってしまい、ストリックランドはイライザ宅へ。
ゼルダから連絡を受けたイライザは慌てて運河へ。
魚人を海に還そうとしていたまさにその時、執念で駆けつけたストリックランドは銃を発砲し、イライザと魚人は凶弾に倒れてしまいます。



愛と喪失の結末
しかし魚人は自らの傷を治し、ストリックランドの喉を爪で切り裂き殺害。ジャイルズが見守るなか、イライザを連れて海に飛び込む。
瀕死のイライザ。
海に沈んでゆく二人。
『彼』がイライザにキスをすると、虐待の跡である首の傷からエラ呼吸ができるようになり、意識を取り戻します。
水の中の世界、二人は抱き合ったまま沈み続けていくのでした。


『彼』とイライザにとってはハッピーエンドかな?とも思うのですが、異端者とされる二人は地上では生きていけなかった、ともとれるし、余韻の残るラストでした。






意味深なイライザの過去
イライザは「川に捨てられていた孤児」で、「首に傷があり」、もともと「声が出せない」という過去をもっていました。
もしかしたらイライザは…。



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