2018年/日本/111分/大泉洋/小松菜奈/82点
あらすじ
怪我で陸上の夢を絶たれた高校2年生の橘あきらは、偶然入ったファミレスの店長・近藤正己の優しさに触れたことをきっかけに、その店でアルバイトをはじめる。45歳の近藤はあきらより28歳も年上で子持ちのバツイチだったが、あきらは密かに近藤への恋心を募らせていく。ついに思いを抑えきれなくなったあきらは告白するが、近藤は彼女の真っ直ぐな気持ちを受け止めることができず……。
以上、映画.comより
ざっくり感想
普通におもしろい良い映画
「おじさんと女子高生」という言葉に先入観がある人ほど観てほしい
小松菜奈かわいい(ヒロインが可愛いの大事)
「原作も良い漫画」
この作品の原作漫画は読んでますが、アニメは観ていません。
ラストは原作・アニメ・映画で全て違うという話は聞いていて、確かに原作漫画とは異なるラストになっていました。
良い悪いではなく個人的には映画の結末の方が好き。
その他にもちょこちょこ原作と違う点はありましたが気にならない程度というか、映画の方が登場人物に優しい仕様になっているような気がします。
ヒロインのあきら=小松菜奈はぴったり。
店長=大泉洋は原作イメージとはちょっと違うけど原作も映画も「冴えないけど噛み締めれば味が出るスルメのような中年男性」で良かったです。
以下、ネタバレなし感想
「小松菜奈をやっと、かわいいで上書きできた」
ヒロインの橘あきらは感情があまり表に出ず、黙っていると周囲に「怒ってる?」と怖がられてしまうような女の子。
店長にも何だかキレ気味に「わたし店長のこと好きです!」とぶつけるような告白をします。そのキレ気味な告白が可愛い。
笑う時は笑うし(滅多にないけど)、店長に対して不器用に一途で可愛い。
弱みを握られてバイト仲間とデートする時は「空手チョップ」書かれたTシャツを着るけど、どうにかこぎつけた店長とのデートでは清楚な白ワンピでお洒落をしたり、持っていると恋が叶うと噂の可愛くないキャラクターマスコットを手に入れるためひたすらガチャを回したり、教科書に店長と自分の名前を落書きしてしまったり可愛い。
可愛いだけでなく、あきらは陸上をやっているので走るシーンも多いんですが背も高くスラッとしてて格好いいしヒロインである小松菜奈を堪能するという視点でも良く作られてると思いました。
余談ですが私が小松菜奈を最初に認識したのが彼女のデビュー作『渇き。』でして、すごく役にハマっていて、ただその役柄が天使の顔をした悪魔のような女子高生でもうずっとそのイメージが頭の片隅に残っていたんですけど、この作品でやっと上書きできました。
『渇き。』は面白かったけど登場人物に基本クズが多い胸糞悪い映画でした(褒めてます嫌いな訳ではないです)
悪魔な小松菜奈と役所広司のクズ野郎な演技を堪能できます。
映画の冒頭が漫画的な疾走感のある導入になっていたんですが、監督が「帝一の國」の永井聡と知り勢いの良さに納得。
「帝一の國」は何気に大好きな、漫画原作を独自アレンジして上手く映画化していると思う作品です。
推し俳優はいないけど推しキャラは森園先輩。
「女子高生が45歳男性に恋をした経緯」
あきらが店長を好きになったきっかけは、足の怪我のため通院している病院の帰り、雨に降られて雨宿りのために入ったファミレスで店長が食後のコーヒーをサービスしてくれたのがきっかけでした。
コーヒーを出すだけではなく、店長はちょっとした手品をその時に見せてくれて、「ごゆっくりどうぞ」と言ってくれて、店を出る時に店員が足の怪我を気遣ってくれて、入れ替わりにバイト面接の女子高生がやってきて。
そんな些細なことがきっかけで部活復帰に踏み切れないあきらはバイトを始めて店長の人柄にさらに触れて恋をします。
バイト仲間のチャラい大学生・加瀬(磯村勇斗)があきらが店長を好きなことに気づきちょっかいをかけてくるんですが、反発するあきらにズバッと「楽しかった陸上がダメになって今は恋してるんだ?でもその相手が45歳のオッサンってキモくない?」と切り込んできます。
部活仲間で幼馴染で、親友でもあるはるか(清野菜名)にも店長のことが好きだと気付かれ「オジさんじゃん!あきらが何考えてるかわかんないよ!」とか言われてしまいます。
確かにそういう部分はあって、あきらの心に隙間があって雨が降っていたから店長の優しさがスッと入ってきたんだろうと。あきらも怪我をしていない状態で普通に雨宿りをしたファミレスで店長にコーヒーをサービスされたとしたら「優しくて面白い人だな」だけで終わったと思います。
だけどちょっとしたタイミングやその時の状態とかで、年の差とかいろいろ飛び越えて恋に落ちることはあり得ると思う。
そして店長が一見本当に冴えない中年だけどすごく誠実で優しいので、加速度的にあきらの恋心が深まっていったんだなという説得力がある。
私自身も「45歳男性と女子高生の恋物語」という言葉だけだとちょっと引くので店長があっさりと女子高生ヒロインのあきらとくっついていたら「ないわー」と思ったはず。
なので先入観を持つ人ほど観てほしいと思う。
「女子高生に恋された45歳男性の対応」
店長はあきらのバイト仲間のJK・ユイ(松本穂香)には「店長って加齢臭がしそう」と言われたり客のクレームにひたすら「申し訳ございません」と頭を下げてパートの久保さん(濱田マリ)から「情けない」と言われたりと冴えない中年そのままで、けしてイケオジではないです。
あきらから「店長、メッセしてます?(店長とメッセしたいです)」と言われてもまずメッセが何のことかわからない(おそらくこの映画の世界におけるLINEのようなもの)
椅子に座る時「よっこいしょ」とか言っちゃうし唾が飛びそうな大きなくしゃみをするし加齢臭気になるしで、自分が女子高生から好かれるとは夢にも思ってない。
加えて小説家になるという夢への執着を捨てきれなかったり「自分には夢や目標も何もない」と自虐しています。
なので最初はあきらの告白を恋心とはとらえず「ありがとー!いつも睨まれてるから嫌われてると思ってたよー!」みたいに悪気なく軽く返すし、あきらが本気だとわかってからも「普通の恋愛なら好きになる理由は必要ないけど、自分のようなおじさんに恋をする場合はそれなりの理由が必要」と戸惑いながらも冷静です。
だけどあきらの陸上への葛藤を少しずつ理解し、心配し思いやり、子どもだからと侮るのではなく、世間体を気にして逃げるのでもなく、大人の立場から手を引いて導くというよりも、若者が後ろに倒れないように背中に手を添えてくれるみたいな距離感に変わっていきます。
とりあえず店長、良い男というより良い大人…!
「脇を固める俳優陣も充実してます」
あきらの親友・はるか(清野菜名)やパートの久保さん(濱田マリ)もピッタリでしたがもう2人。
過去、あきらと同じアキレス腱断裂の怪我を負うもあきらに憧れ復帰を果たした他校の後輩陸上選手・倉田みずき(山本舞香)と、大学時代の店長と同じ文学サークル仲間で現在は作家の九条ちひろ(戸次重幸)も良かったです。
みずきは自分の認めた選手であるあきらが陸上復帰をせずバイトをしているのを知り、バイト先に赴きゴミ出しに出たあきらをロックオン。
クラウチングスタートからのダッシュ→すごく勢いのある壁ドンをかまし「橘先輩、あなたの記録なんてすぐにぶっちぎりです!」と宣言します。
その後はるかからも「あの子早いよ」「あきらの記録抜くかも」と聞き心がザワつくあきら。
店長はあきらとの交流をきっかけに大学時代の同期である九条に連絡を入れサシ飲みをし色々な話をします。
夢を叶えた九条と叶えられなかった店長。
その後も会うようになり、風邪を引いた店長は九条に助けを求め九条は看病にやってきます。
おそらく「自分には無理だ、今さら無理だ、もう無理だ」と思いながらも小説から離れられない店長に九条が言う言葉「未練ではなく執着っていうんだ」にハッとします。
以下、ネタバレあり感想
「来月のシフトは入らなくていいよ」
男女としてというよりは、人同士として距離が近づく店長とあきら。
店長は離婚した妻との間にもうけた別居中の息子・勇斗に走り方を教えてほしいとあきらを海に誘います。
笑顔で勇斗に走り方を教えるあきら。
そんなあきらに店長は「来月のシフトは入らなくていいよ」「その次の月もそのまた次もずっと入らなくていいから」と声をかけます。
あきらはそれまで希望シフトを提出する時は「月火金土 日曜日も入れます」と申請していたのですが、走りたいという気持ちが強くなっていることを店長は察したのでしょう。
「映画版の結末」
海でのシーンから数か月後。
ファミレス「ガーデン」はあきらが抜けてんやわんや。しかしベテランとなったユイがキビキビ働いて頑張っています。ちなみにここまで触れていませんでしたが、バイト先にはあきらに片思いをしている同級生の吉澤(葉山奨之)がいて、原作では吉澤が好きなユイはフラれバイトも学校の事情で辞めてしまっていたのですが、映画ではユイはバイトを続け吉澤もキビキビと厳しく働くユイを見て「イイな」とか思うようになります。加瀬は相変わらずチャラい感じです。
あきらは陸上に復帰。
みずきと対決しますが見事に自己新記録を更新して一位をとります。良かった!
九条は芥川賞を受賞。店長は小説を書き上げたようで、ファミレスの休憩室でそれを見つけた久保さんがお弁当を食べながら引き込まれた様子で読み進めています。ちょっと店長のこと見直してくれそうな予感。
本部からの帰り、車の中から店長は陸上部のランニングに遭遇。
そこにあきらがいました。
あきらは立ち止まり、店長も車から出てきます。
ランニングの列から離れ向かい合う2人。
「実は本部からの帰りで、少し昇格できそうなんだ」と告げる店長に「すごい!」と喜ぶあきら。
数か月ぶりに再会した店長を見つめ、感極まり涙目のあきら。
涙をためながらも笑顔であきらは言います。
「わたしたち、友達ですよね?」
「店長とメールがしたいです!」
充血涙目で笑顔のあきらがいじらし可愛いーーーーーーー!!!!!
というラストでした。
メールという距離感は、あきらはずっとグイグイ店長に気持ちを伝えていたけれど離れていた数か月の間にちょっと大人になったのかな?
原作は「2人の道は完全に分かれた」みたいなラストだったんですが、映画版のこの結末だと「メールをやり取りし大人になったあきらが別の人を好きになるのを見守る店長エンド」や「数年後の未来にもしかするとあきらと店長が結ばれるかもエンド」など観客がいろいろ想像できるのが良いと思います。
おじさんと女子高生というとどうしても色々な事件を思い出したりしてしまうのですが、あきらがあまりに純粋に一途に店長を好きなので、「あきらが高校を卒業したら、もしくは20歳を過ぎてからでも、店長、考えても良いんじゃない…?」とむしろ応援したくなるような気持ちになってしまいました。
少女漫画のようなキラキラはない、男性目線のおとぎ話でもない、「45歳の男性に恋をした女子高生の物語」として本当に良い作品だと思います。