ゲキ×シネをご存知ですか。
もちろん知ってるし観てるという方、興味はあるけど観たことはないという方、何それ知らない、という方いらっしゃると思うのですが、
演劇(エンゲキ)作品を映画館(シネマ)で体感する=ゲキ×シネ です。
演劇作品ですが、劇場公開映画として編集されているので映画として楽しめます。
作品によっては漫画のコマ割りみたいなカットもあり新鮮。
ここ数年、全国の映画館で劇団☆新感線の10以上の作品が上映されてきましたが、作年は看板人気作品「髑髏城の七人」の2017年-2018年公演<花鳥風月(上弦・下弦)極>6作品を1年かけて上映していました。
私はもともとゲキ×シネは「蛮幽鬼」と「髑髏城の七人」が飛び抜けて好きなので、花鳥風月極はリアルタイムのライブビューイングと昨年の連続上映は欠かさず観たのですが、“2020冬の陣”として2月から再上映されてます!わぁいまた観る!
新感線のゲキ×シネは公式が「新感覚エンターテインメント」と銘打っているのですが、特に髑髏城は笑いあり涙あり恋あり裏切りあり大立ち回りあり爽快さの中にも切なさありで目の回る面白さ感情のジェットコースター。
面白い作品がたくさんありますが、冬の陣に合わせて「髑髏城の七人」おすすめ記事を書きたいと思います!
髑髏城の七人 基本のストーリー
天正十八年。
織田信長亡き後、天下統一は豊臣秀吉によってなされようとしていた。
しかしそれに抗う一人の男が関東に存在した。
それは、漆黒の髑髏城に潜む武装集団≪関東髑髏党≫を束ね、自らを“天魔王”と名乗る、かつて信長に仕えた男であった。
血を流すことを厭わず、もはや狂人と化した天魔王率いる関東髑髏党に追われていた女を行きがかりから助けた捨之介は、女を匿ってくれるという色里で無界屋蘭兵衛に出会う。
奇妙な縁に操られ、関東に集まり始める者たち。
捨之助と蘭兵衛が共に抱える過去、そして天魔王とのつながりが明らかになる時、天魔王の悪しき野望も明らかになろうとしていた。
全てを覚悟した捨之介は天魔王を止めるため、たった七人で二万の兵で囲われた髑髏城を攻め落とすことを決意するのだった。
ゲキ×シネ公式サイトより
話のベースは極以外全て上記と同じです(上弦の月・下弦の月のみ髑髏党に追われていた女=「沙霧」が男=「霧丸」に変更)
役者が違うだけで登場人物もほぼほぼ一緒です(※極除く)
極以外の主役は捨之介で、2004年のゲキ×シネ最初の髑髏城「アカドクロ」では古田新太、同年の「アオドクロ」で市川染五郎、2011年の「ワカドクロ」では小栗旬が演じています。
捨之介と天魔王はもともとは一人二役で演じられていて、「ワカドクロ」以降別々の役者さんが演じるバージョンも始まりどちらも見ごたえがあります(花鳥風月極では「風」が一人二役バージョン)
個人的に「アオドクロ」が大好きなので画像もアオドクロ
そして花鳥風月では再びの小栗旬、阿部サダヲ、松山ケンイチ、福士蒼汰、宮野真守というバラエティに富んだキャスティング。この面子が皆同じ役を演じるというのが既にワクワク。
捨之介以外も毎回キャストが違うのでそれぞれの公演で個性の殴り合いをしているみたいで楽しいです。
同じ役を演じるということでどうしても比べられる部分はあるので、役者さんも「負けられない!」「より良い作品を!」と相乗効果で切磋琢磨しておられるのだと思います。
観客側も「見比べる楽しみ」「自分好みの髑髏城を探す楽しみ」があります。
「アカドクロ」「アオドクロ」「ワカドクロ」を観てからの花鳥風月極だったのでそういう差異を見つけたり感じたりするのを楽しみにしていたのですが、「極」でまさかの捨之介、蘭兵衛不在という不意打ちを喰らい、中島かずき流石だなと思いました飽きさせない。捨之介不在でもちゃんと「髑髏城」の世界!
花鳥風月極は日本初という360°回転シアター「IHIステージアラウンド東京」のこけら落とし公演としての上演でもあり、ゲキ×シネで映像として観ると場面転換やセットの作りこみが見事でした。
花鳥風月(上弦・下弦)はどれから観ても大丈夫ですが、最初の「花」がベーシックかつ「掴みが肝心」とばかりに作り手の気合が伝わってくるのと役者陣の安定感もあり、何より古田新太の贋鉄斎が腹が捩れるほど面白いので敢えていうなら「花」がおすすめかなと思います。
「極」は異質ですが「大人の髑髏城」という感じで、天海祐希の美しさと恰好よさと秘めたいじらし可愛さに悶えてしまいます。
WOWWOWで髑髏城含めたゲキ×シネ作品の配信、Paraviでも花鳥風月極の順次配信が始まったのでまず好きな役者さんが出ている作品を観て、そこからズブズブと沼にハマっていくのも良いかと。
以下、花鳥風月(上弦・下弦)極、それぞれの見どころを感想を交えて書いていきます。髑髏城は本当に好きだしお勧め記事でマイナス要素を書くのもどうかなとは思ったんですが、観ていて気になった、「ん?」と思ったところも正直に書きます。
ゲキ×シネ未体験だった友人にプレゼンした時にそれぞれの作品を漫画雑誌に例えていたので今回も書きますが、髑髏城好きブロガーさんの記事でやはりそれぞれを漫画雑誌に例えていたのを見かけたことがあります。「上弦の月」の例えがジャンプで同じだなと思った記憶あり。上弦はほんとジャンプ。
漫画雑誌に例えることでそれぞれの作品の雰囲気や空気感を感じていただければ。
ちなみに「アカドクロ」は漫画アクション、「アオドクロ」はビッグコミックスピリッツ、「ワカドクロ」はヤングジャンプなイメージです。
『髑髏城の七人』Season花
漫画で例えるなら「モーニング」
捨之介=小栗旬 天魔王=成河 沙霧=清野菜名 無界屋蘭兵衛=山本耕史 極楽太夫=りょう ぬかずの兵庫=青木崇高 贋鉄斎=古田新太 裏切り渡京/三五=河野まさと
連続公演の第一回作品ということで、制作側の気合が一際入っていたように感じました。豪華なキャストが期待に応えたどっしりとした演技で魅せてくれた正統派なお芝居。
小栗旬は2011年の「ワカドクロ」でも捨之介を演じていたのですが年齢を重ねた分か、より「浮世の義理も昔の縁も、三途の川に捨之介」という名乗りがキマって魅力的な捨之介になっていたと思います。沙霧役の清野菜名のアクション、身軽さも山育ちの少女らしくて良かった!
素晴らしすぎたのが古田新太演じる贋鉄斎。台詞も間合いも表情も全てが面白すぎて、初っ端の「花」でこれだけ面白い贋鉄斎を見せられてしまうとこの後大丈夫なの?と心配になるくらい笑わせてもらいました。古田新太って改めて凄いんだなと。
贋鉄斎は刀鍛冶で、捨之介の依頼で天魔王を倒す為の最強の剣「斬鎧剣(ざんがいけん)」を打ったのですが刀は人を切るとどうしても血や脂で切れ味が悪くなる、天魔王に辿り着くまで切れ味を保てないどうしよう、となり…贋鉄斎は相手を斬りまくる捨之介に付き添い、斬っては打ち斬っては研ぎを繰り返すんですが、小栗旬が格好良く斬りまくるすぐ横でローラースケートで滑りながら打ち研ぎまくる贋鉄斎が面白すぎてカオス。
100人斬りというめちゃくちゃ格好いい見せ場なのに愉快な贋鉄斎に食われてしまっている主役の捨之介が愛しかったです。
『髑髏城の七人』Season鳥
漫画で例えるなら「ヤングガンガン」
捨之介=阿部サダヲ 天魔王=森山未來 沙霧=清水葉月 無界屋蘭兵衛=早乙女太一 極楽太夫=松雪泰子 ぬかずの兵庫=福田転球 贋鉄斎=池田成志 裏切り渡京/三五=粟根まこと
ちっちゃい捨之介。古田新太演じる捨之介以外は大体高身長のイケメンが演じてきた捨之介を阿部サダヲが演じます。ガラッと色を変えて笑わせてくるんだろうなぁと思っていたら阿部捨之介はもちろん天魔王(森山未來)もかなり攻めてきました。
手足が短くて敵に攻撃が届かない捨之介、殺陣はすごいのにルー大柴のように台詞の随所随所に「イグザクトリー!」などの英語を挟んでくるオーバーアクションな天魔王、そんな愉快な2人に対しクールな蘭兵衛。全くツッコまない。
「ワカドクロ」でも天魔王と蘭兵衛を演じた森山未來と早乙女太一の殺陣が見事です。
「髑髏城」の沙霧は捨之介にほのかな恋心を抱くんですが、この「鳥」ではそんな雰囲気が感じ取れず、でも劇中の台詞ではこれまで通り「沙霧は捨之介が好き」という周囲の共通認識があるみたいな感じだったので「?」とちょっと思いました。
『髑髏城の七人』Season風
漫画で例えるなら「ヤングマガジン」
捨之介/天魔王=松山ケンイチ(二役) 沙霧=岸井ゆきの 無界屋蘭兵衛=向井理 極楽太夫=田中麗奈 ぬかずの兵庫=山内圭哉 贋鉄斎=橋本じゅん 裏切り渡京/三五=河野まさと
捨之介と天魔王、一人二役バージョンです。一人二役バージョン大好きです。
ビジュアルのバランスが良いキャスティング。
年上で色男、女好き(でも少女趣味ではない)で飄々とした捨之介←ほのかな恋心を抱く小娘な沙霧、蘭兵衛←極楽太夫←兵庫な矢印が自然。
一緒に花鳥風月極を観た友人は松山ケンイチ演じる捨之介がストライクなようでした。
向井理演じる蘭兵衛、綺麗だけど殺陣が気になってしまう。
『髑髏城の七人』Season月(上弦の月)
漫画で例えるなら「少年ジャンプ」
捨之介=福士蒼汰 天魔王=早乙女太一 霧丸=平間壮一 無界屋蘭兵衛=三浦翔平 極楽太夫=高田聖子 ぬかずの兵庫=須賀健太 贋鉄斎=市川しんぺー 裏切り渡京/三五=粟根まこと
沙霧が霧丸(男)になりました。歴代の沙霧は捨之介にほのかな恋心を抱いていたのでどうなるのかなと思っていたら、捨之介と霧丸の共闘要素が強くなり霧丸が捨之介の救いになるような部分もあり、なるほどと。
イケメン揃いでパンフレットでも武士の時代の男色文化について説明しているページを設けたり制作側も意図しているのだろうし、そもそも信長と蘭丸の関係性や、天魔王と蘭兵衛の縺れた関係も男色と無関係ではないと思うので乗っかっていいとも思います。
「月」の特徴はかつてない天魔王フューチャー。初っ端から天魔王オンステージで実際に歌って踊ります。初見びっくりしました。
今作で天魔王を演じた早乙女太一はこれまでの髑髏城で蘭兵衛を演じていてそのイメージが強いのですがイッちゃってる天魔王をいかにも悪役!という感じで見事に演じていました。
福士蒼汰演じる捨之介は歴代イチ爽やかな捨之介で全くいやらしさがない遊女に囲まれてもいやらしくないバトル系の少年ジャンプ主人公感。
これまでも早乙女太一が蘭兵衛を演じると殺陣の凄さに「この蘭兵衛、捨之介よりも強いよな天魔王よりも強いんでは関東統一も出来そう…」と思いながら見ていたのですが、満を持しての天魔王です。「月」でもやっぱり捨之介より天魔王の方が強そうなんですが、仲間と協力し合い霧丸と共闘して最後には捨之介が勝つ展開、いつも以上に少年漫画でした。
蘭兵衛はどの作品も美しいですが、三浦翔平の蘭兵衛は本当に美しい。
須賀健太の兵庫アニキは華奢で可愛すぎてむしろ荒武者隊は「俺たちがアニキを守る」くらいの気概を持っていたのでは。そして極楽太夫に対しては恋愛ではなく母の面影を見ているとかでも良かったのでは。
『髑髏城の七人』Season月(下弦の月)
漫画で例えるなら「ヤングエース」
捨之介=宮野真守 天魔王=鈴木拡樹 霧丸=松岡広大 無界屋蘭兵衛=廣瀬智紀 極楽太夫=羽野晶紀 ぬかずの兵庫=木村了 贋鉄斎=中村まこと 裏切り渡京/三五=伊達暁
「上弦の月」「下弦の月」は2011年の「ワカドクロ」と比べてもさらに若い出演者が多いということで、演出のいのうえひでのりは「超ワカドクロ」と表現しているそうです。
「月」の捨之介はこれまでの捨之介と少し違って、若さゆえか「天魔王を倒す」前に「お前が思い直せばこれ以上無用な血は流れない」みたいな説得台詞があるんですが、この期に及んでそんな台詞を天魔王にぶつけることが出来るのが月の天魔王と捨之介は本当にわかりあえてないんだなぁとこれまでにはない淋しさを感じました。
下弦の天魔王は鈴木拡樹。早乙女天魔王は独自解釈を入れながら粘土を足し捏ねながら作り上げた天魔王で、鈴木天魔王はキャラクターを掘り下げて仏師が木材から仏を掘るように作り上げた天魔王、という感じでした。鈴木天魔王は顔芸もすごかった(口の片側がめっちゃ吊り上がる)
無敵の天魔王の鎧を1枚1枚剥がされて丸腰になってしまうシーンは、それまでとうってかわって本当に弱っちそうになるのが何だかんだ分不相応な野望を持った天魔王らしくて良い。
伊達暁演じる裏切り渡京のビジュアルや口調がこれまで何度も渡京を演じてきた粟根まこと演じる渡京に近く、初めて観る場合は良いのだろうけど粟根渡京を観たことがある人は違和感を感じてしまうと思う勿体ない。
「月」はどちらも天魔王に尽くす生駒がいじらし可愛くて好きです。
『髑髏城の七人』Season極(『修羅天魔』)
漫画で例えるなら「コミック乱」
極楽太夫=天海祐希 天魔王=古田新太 沙霧=清水くるみ 夢三郎=竜星涼 ぬかずの兵庫=福士誠治 贋鉄斎=逆木圭一郎&三宅弘城(カンテツ) 裏切り渡京/三五=河野まさと
これまでと違う、捨之介も蘭兵衛もいない髑髏城!ということでザワつきつつ天海祐希と古田新太なら間違いないだろう!と期待値の高かった公演。
髑髏城をベースにした当て書きだと思うのですが天海祐希の魅力がほんと詰め込まれていました。美しさと強さはもちろん、一途で純な女性の部分も。
重厚、大人の髑髏城。
個人的に毎回ここに注目しながら見ています
「捨之介が背負っているものの重さ/過去を捨てているのか捨てきれていないのか」「天魔王が誕生した理由」「信長を軸にした蘭兵衛と天魔王の関係」「蘭兵衛の信長への執着」 この辺りは作品ごとに演出や台詞の違いから毎回解釈が微妙に異なるので楽しみです。
マイベスト髑髏城
「アオドクロ」が最推しです。
色男で女好き、少女趣味はないけれど女は平等に大切にする過去に傷ある捨之介。そんな捨之介に徐々にほのかな恋心を抱くようになる沙霧(しかし捨之介には小娘扱いされる)
市川染五郎(現松本幸四郎)と鈴木杏が演じたのですが、捨之介と沙霧の年の差感や今はダメでも数年後にはあるいは…というちょっと少女漫画めいた恋愛要素にときめきます。
市川染五郎なので当然殺陣も素晴らしい。
一人二役ワクワクするし粟根まことの裏切り渡京も大好きだし…ということでアオドクロが大好きです。
ゲキ×シネはいいぞ
陰と陽、喜怒哀楽のバランスという点では「髑髏城の七人」が好きだしお勧めなのですが、蜘蛛の糸のような希望を残したラストの「蛮幽鬼」、髑髏城以上の爽快感がある「五右衛門ロック」シリーズもあります。もちろん鬱々しい作品も。
花鳥風月極以外の作品は劇場公開が一旦終了してしまっているのですが、「アカドクロ」「アオドクロ」「ワカドクロ」、それ以外のゲキ×シネ作品もまた劇場で上映されるといいな、と思います。