※ただしイケメンに限る、のある意味究極
「1971年のアルゼンチンで12人以上を殺害した連続殺人事件の犯人である少年をモデルに、スペインの名匠ペドロ・アルモドバルが製作を務めて描いたクライムドラマ」
なのですが、犯人がとんでも美青年だったので「天使の顔をした悪魔のアウトロー青春ストーリー的プロモーションビデオ」みたいなオシャレ感すらある作品になっていました。
今年ちょうど「ヘンリー ある殺人鬼の記録」※300人以上殺害したとされるアメリカの実在の殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスの日常を淡々と殺人鬼観察映像のように描いた映画を劇場で観たところだったので余計に「とびぬけて顔が良いと実在したシリアルキラーでもイケてる風に映画が作られるんだなぁ」と。制作の意図がそもそも違うと思われる2作品ではありますが。
2018年/115分/アルゼンチン・スペイン合作/ロレンソ・フェロ/72点
あらすじ
1971年のブエノスアイレス。思春期を迎えたカルリートスは、子どもの頃から他人が持っている物を無性に欲しがる性格だった自分の天職が、窃盗であることに気づいてしまう。新しく入った学校で出会ったラモンという青年にたちまち魅了されたカルリートスは、ラモンの気をひくためにこれ見よがしな対応を取り、2人はいとも簡単に殺人を犯してしまう。次第にカルリートスとラモンの蛮行はエスカレートし、事態は連続殺人へと発展していく。
―映画.comより―
実話というより「超美形な連続殺人犯がいた」という事実から作られたキャラクター
主人公のカルリートスは、アルゼンチン犯罪史上最も有名なカルロス・エディアルド・ロブレド・プッチという人物をモデルにしています。
映画を観る前にさらっと本人写真と犯罪歴を調べてみたところ本当に美青年でした。
美青年過ぎて当時は実際に「ブラック・エンジェル」「死の天使」と揶揄されたそうでそれも納得。
殺人以外にも誘拐や強姦、性的虐待や殺人未遂(強盗に入った先で夫婦を殺害し、新生児が泣くベビーベッドを銃で撃つも赤ん坊は無事だった)などえげつなかったので映画でどうなるか心配だったのですが映画の中での犯罪描写は控えめでした。
1971年から1972年の間、カルロス19歳から20歳にかけての1年間の間でこれらの犯罪を犯し逮捕をされ、今も刑務所に入っているとのこと。
映画公式サイトでも
「複雑な魅力をあわせ持つ、実在の殺人犯カルロス・ロブレド・プッチからアイデアを得たオルテガ監督だが、映画の主人公としては「怪物カルロス」とはいくぶん異なる、架空のキャラクター「カルリートス」を生み出した。」
「カルリートスは、自分が何をしているのか、自分でも理解していないキャラクターである。」
と語られておりカルロス本人の内面や犯罪の内容、その描写というより「超美形な死の天使が相棒とともに様々な犯罪を犯した」という事件をもとに生み出した妖しく美しい「カルリートス」という少年のとんでも青春ストーリーを描いた作品となっていました。
ざっくり感想
サイコパス幼児体型美少年カルリートス
なんかオシャレ
ロレンソ・フェロの素晴らしいプロモーションビデオ
なんかオシャレ
BLのようでBLでないかなり拗らせた相棒への執着
サイコパス天使体型美少年カルリートス
カルリートス(ロレンソ・フェロ)の無垢とも見えるサイコパス美少年ぷりがハマってます。
冒頭からしれっと豪邸に盗みに入り、焦るでもなくレコードを聴いてのんびり踊ったりお酒を飲んだり好き勝手をし、停めてあったバイクにレコードを積んで家に帰ります。
カルリートスには“人のもの”という意識がなく、“みんな自分のもの”なので激しい執着ではなくてもちょっといいな、ちょっとほしいな、と思っただけで息をするように盗みます。
彼の善良な両親はしょっちゅう色んなものを持ち帰る息子に心を痛め「盗みはだめよ。返してきなさい」と諭しますが「借りたんだよ」と聞く耳を持ちません。
盗んだネックレスを可愛いガールフレンドに「ママの若い頃のものなんだ」と息をするように嘘をつきプレゼントします。
盗みに入った先でも家主に見つかると「あ、ヤベッ」て感じにあっさり銃で撃ち殺します。
現金も宝石もレコードも人の命も等しくどれも「人のもの」ではなく、「盗んだり奪ったりしてはいけないもの」という知識はあっても認識がないように思えます。
作中でのカルリートスは少年院から出てきたばかりという設定で、工業系の学校へ編入するのですがそこで相棒となるラモンに出会います。
ラモンの両親は犯罪歴があり、銃を所持していたり 父親はヤク中だったり母親はカルリートスに色目を使ってきたり薄暗い一家なのですが、ラモン父に初めて銃を撃たせてもらったカルリートス「もっと撃ちたい」ラモン父「ダメだ。弾だって高いんだ」カルリートス「じゃあ盗もう」という流れでチームを組み、あれよあれよとコソ泥→強盗→強盗殺人へエスカレート、犯罪を重ねていきます。
カルリートスをラモンは2人で組んで犯罪計画を実行していきますが、バレないように急ぐラモンと対照的にカルリートスは忍びこんだ宝石店で盗んだイヤリングを耳につけて微笑んだり、ある程度で引きあげようとするラモンに「まだ盗める。僕は残るから回収にきて」と一人で現場に戻ったりマイペースです。
ラモン父はそんなカルリートスを「天才だがチームを組むには危険」と称します。
「悪いこと」を「悪いことだと知っている」けど「悪いことだと思っていない」と犯罪に手を染めるハードルはとても低いんだろうなぁ…。
カルリートスが性的な意味ではなく下着一枚になるシーンがあるのですが、お腹がぽっこりしていて幼児体系なのが色白ブロンド巻き毛と相まって宗教画の天使が運動せずに大きくなったらこんなビジュアルになりそうだなぁとも思いました。カルリートス筋トレとかしなさそうだからお腹ぽっこり納得。
ロレンソ・フェロの素晴らしいプロモーションビデオ
1970年代のファッションであったり、使われている音楽であったり、明らかにそんな場合ではない場面でカルリートスが無邪気に踊ったりクライム映画というよりロレンソ・フェロを魅力的に撮ろうという気合を込めて作られたすごく良くできたプロモーションビデオのような雰囲気でした。
天使の顔した悪魔ぶりとかラモンとの絡みで見せる妖しさとかお母さんが作った料理を美味しそうに食べる子供っぽさとか。
ぷっくりとした赤い唇を意味深にアップで撮ったり。
ロレンソ・フェロは1998年生まれとのことなので撮影時は18、19歳とかでしょうか?
少年期から青年期へ変わるすごく綺麗で貴重な瞬間を舐めるように撮っていて主演俳優に対する愛情が感じられる。
私の好みとは外れるので「ほぉー…」と冷静に観てましたが、自分の好きな俳優や好みのビジュアルをした俳優がこんな風に撮られたら悶え萌え苦しみながら何度も観てしまう映画館通ってしまう80点くらいつけてしまう。
映画って、ストーリー重視であったりアクション重視であったり色んな見方ができるけれど「主演女優や主演俳優を魅力的に撮る」というのは欠かせない部分だと思います。
その点、撮影時のロレンソ・フェロの妖しい美しさを見せつける映画として素晴らしい。
以下、ネタバレあり感想
BLのようでBLでないかなり拗らせた相棒への執着
欲しいものは我慢しないカルリートスですが、反面「ものすごく執着するもの」はなさ気です。
可愛いガールフレンドもいるけれど本当の自分は見せずに軽く楽しく付き合っている。
そんなカルリートスが唯一執着したのが相棒のラモン。
ラモンはカルリートスとは対照的でラテン系ワイルドな濃い顔美青年。
善良な親に育てられた善良でないカルリートスはラモンに自分と同じ匂いを感じたのかラモンの気を引くためにカルリートスからちょっかいをかけて怒らせたり、ジッポライターやレコード(盗んだもの)をあげたりします。小学生か。
ラモンと組むようになり仕事のためにゲイ男性にラモンが体を触らせた時も気にかけたり色々あって(警察に捕まりそうになりラモンを見捨ててカルリートスが逃げた)相棒を解消されラモンが別の男と組みだした時は嫉妬のような顔をみせたり。
ラモンはゲイ男性とかかわった際にちょっとした「スター誕生」みたいな番組に出て歌とダンスを披露し、スターを夢見るのですがそれをTVで見ていたカルリートスは自分がブラウン管の中に飛び込みラモンの隣で彼の歌に合わせて共にダンスをする…という夢想をします。その夢想の中のカルリートスはとても楽しそうで幸せそう。
TVに出たことを母親に電話で「見てくれた?」と報告するも「ヘンな夢みるんじゃないよ」と相手にされずショックを受けるラモンを「最高だったよ」 と励ましたりもします。
もともと2人の距離は近く、盗んだイヤリングを耳につけたカルリートスにラモンが「マリリン・モンローみたいだ」と囁いてカルリートスが妖しく微笑んだり、ベッドで全裸で眠るラモンの股間を盗んだ宝石で飾ったり、BLの香り。
カルリートスは新しい相棒と新しく仕事(これも犯罪)をしようとするラモンを車に乗せ走り…事故ってラモンは死にますがカルリートスは生きてます。
というか事故に見せかけてころ…。
ここが邦題に繋がる…?
モデルとなったカルロスも共犯者を車の事故に見せかけて殺していて、当時も「同性愛の関係だったのでは?」と疑われ否定していたそう。
ちなみに映画を見終わってすぐは「BL臭はしたけどBLではなかったな」と思ったんですがこの感想を書きながら「でもカルリートスが一番幸せそうに楽しそうにしてたのはブラウン管の向こうのラモンの隣で踊ってる自分を夢想したシーンだったな」と思い出しラストシーンも含めてBLにカウントしてもよいくらいカルリートスはラモンに執着してたしすごく身勝手ではあったけど愛していたのかもとも思いました身勝手だったけど。
盗み、殺し、レコード、ダンス
ラモンの死後、カルリートスはラモンと新しく組むはずだったミゲルと組んでさっそく強盗に入りますが、当てが外れ男とも仲間割れしミゲルを殺してしまいます。
容疑がかからないようにミゲルの顔を焼き逃亡しますが結局警察につかまり留置所へ。
連続殺人鬼が超美少年だった!ということでマスコミは大騒ぎ。
連行される澄まし顔のカルリートスをうっとり見つめる少女たち。
「あんな殺人鬼を生み出した両親も拘束しろ」と世間からの非難。
「犯罪者は色が黒く醜い容貌をしているとされてきたが彼は当てはまらない」とTVで語る偉い感じの人もいて時代を感じます酷い。
そしてカルリートス逃亡。
留置所といい盗みに入られた店といい警備がすごく手薄なのは演出なのか時代なのか。
カルリートスは列車に乗り地元へ向かいます。
列車の中でカルリートスの頬を伝う涙…。
えぇっ…すごい共感できない涙だなってびっくり…。
どういう気持ち?ラモンはもういないんだって涙?
列車を降り向かった先はラモンの家。
しかし息子を亡くした夫婦はすでに引き払っておりもぬけの殻。
水道と電話は生きていたので水を飲み、カルリートスは家に電話をかけます。
母「どこにいるの?」
カ「ラモンの家だよ」
母「早く帰っておいで。好物を作って待ってるから」
どこか様子のおかしい母の周りは当然ですが警察がズラリと取り囲んでおり、潜入先を知った警察はカルリートスを捕らえに向かいます。
ラモンの家に一人。
カルリートスは取り残り残されたレコードを発見。
それは出会った当初、彼の気を引きたくてプレゼントしたレコード(盗品)…。
レコードをかけ音楽にあわせてダンスをするカルリートス。
中からの音楽が漏れる中、家の周りを夥しい数の警官が取り囲んでいました。
…
……
というストーリーでした。
冒頭のダンス(コソ泥バージョン)がラストシーンのダンス(凶悪犯警官取り囲みバージョン)に繋がるんだなぁ、カルリートスは マイペースでブレないなぁ。
カルリートスに共感できないので(そもそも共感させようという意図が制作側にもないと思う)色々考察しがいもありそうですが理解できなくて当たり前だし理解できないからこそ成り立つ物語なのかなとも思います。
とりあえずポスターや予告を見て「ロレンソ・フェロ可愛い!カッコいい!」と思った人はぜひ劇場で観て悶えてほしい。