万引き家族/2018年/日本/120分/ 80点
あらすじ
東京の下町。高層マンションの谷間に取り残されたように建つ古い平屋に、家主である初枝の年金を目当てに、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀が暮らしていた。彼らは初枝の年金では足りない生活費を万引きで稼ぐという、社会の底辺にいるような一家だったが、いつも笑いが絶えない日々を送っている。そんなある冬の日、近所の団地の廊下で震えていた幼い女の子を見かねた治が家に連れ帰り、信代が娘として育てることに。そして、ある事件をきっかけに仲の良かった家族はバラバラになっていき、それぞれが抱える秘密や願いが明らかになっていく。
ー映画.comよりー
ざっくり感想
さすがの樹木希林(初枝)と期待を裏切らないリー・フランキー(治)。
なにより安藤サクラ(信代)がすごかった。
子役2人(祥太役とリン役)もすごく合っていてキャスティングがよかった。
貧困までは至らない貧しさの描写がリアルで「家族」「貧しさ」「罪の意識」について考えてしまった映画でした。
ネタバレなし感想
「こんな事件・問題あったなぁ」
猟奇的な犯罪を犯した家族は実は…
家族の死亡を隠し年金を受け取り続ける
独居老人
幼い子どもがいなくなり、マスコミは決定的な証拠はない段階で「○○が殺した」と匂わせるような報道をする
などなど、タイトルは「万引き家族」ですが様々な事件・問題を彷彿とさせるエピソードが満載です。
どれも罪を犯すに至る経緯があり、映画の終盤に全ての罪が明らかになっても問題は解決しないのですごく…モヤモヤします…。
ただラストで一筋の希望は見えたかな?と個人的には思いました。
「家族」
一見すると「お婆ちゃんと息子夫婦に孫2人と嫁の妹」の仲の良い6人家族。
ひとつ屋根の下で暮らす騒がしい、確かに笑いは絶えないと言えなくもない、貧乏ながら楽しいこともある生活を送っていますが、しかしリンは寒空の下空腹に耐えていた、育児放棄されていた少女を保護というより考え無しに連れ帰った血の繋がらない子どもであり、「信代の妹」である亜紀も初枝にはとても懐いているものの信代たちに「お婆ちゃんの年金を食いつぶしてる」みたいなことを言い当たりがきつい。祥太も治と信代になついているものの「お父さん」「お母さん」とは呼べずにいて…とちぐはぐな家族。
新しく家族として迎え入れた少女・リンには「本当の母親と父親」がいますが育児放棄され空腹のまま寒空の下放置をされるし(アイロンを腕に当てられた等の虐待もあり)夫婦間の喧嘩も絶えない様子。
リンを本格的に家族として迎え入れる決心をし、衣類を買いに行った時に浮かない顔をしたリンは「お洋服ほしくないの?」と聞かれ「(お洋服買ってくれた後で)叩かない?」と答えます。
おねしょをしてしまい「ごめんなさいは?」と言われた時も「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」と繰り返していたリン。
初枝は別れた夫の月命日に、自分と別れた後に夫が持った家庭に線香を上げに行きその度にお金も貰っているのですがこの家庭は一見すごく理想的です。
家は大きく清潔で、高校生の娘・サヤカは無邪気に「今日の夜ご飯はロールキャベツがいいな!クリームソースじゃなくてトマトソースで!」とリクエストし元気に学校に通っています。でも父親に家族写真に写る姉のことを尋ねると「海外留学中で…」と言葉を濁す。
万引き家族以外の家族にもいろいろな問題が。
信代は「子どもは親を選べない」「(私たちは)自分で選んで家族になったから絆は固い」と言い、特に「いらない子ども」だと親に言われて育ったリンには「好きだから叩くなんて嘘。好きなら叩かない。好きならこうする」と抱きしめ頬を摺り寄せ愛情を注ぎますが…。
「貧しさ」
この家族、万引きはするけどちゃんと働いてます。
貧困まではいかない貧乏生活という感じです。
ただ体は健康だし、もっとどうにかやりようはあったんじゃないかと思うけど負の連鎖的に悪い方へ悪い方へ向かってしまう。
「どうにかやりようはあったんじゃないか」というのも私の無責任で無知な感想で「どうにもやりようはない」状態なのかもしれない。
でも「やりようはあった」としても、この家族は「それを知ることができない」「知ろうと思うに至らない」生き方をして環境にいる気がします。
…と、登場人物が悪いだけの人たちではないので観ているこっちもモヤモヤする~…。
ところで、散らかった家やベタついた肌の質感とか「貧しさ」がリアルでした。
「お店の物はまだ人の物ではないから盗んでもいい」と教えられた子ども
とんでも理論ですが祥太は治にそんな風に教えられ万引きをしています。
もうひとつ「家で勉強できないやつが学校へ行く」という教えもあります。
物心つく頃からの刷り込みだと完全にその教えに染まりそうではありますが、祥太はどこからか手に入れた教科書を家でも読んでいたり、治とのやり取りでも賢さがわかる聡い子どもなのでその教えを完全には受け入れられず信代に「(お店の物はまだ人のものではないけど、物を置いている)お店はどうなの?」と訪ねます。
信代は「んー…お店が潰れなきゃいいんじゃない?」と答えますが、後に祥太が万引きを繰り返していた商店は潰れてしまいます(実際は店主が亡くなり店を畳んだのですが閉められたシャッターに張られた「忌引き」の張り紙が読めない祥太はそのことが理解できない)
商店の店主(榎本明)はリンが万引きをした時に、2人を捕まえるのではなく祥太に「妹には(万引き)させるなよ」とだけ声をかけていました。
物語の後半、治はエスカレートし「路上荒らし=車の中のもの=人のものを盗む」行為をしてしまうのですが、おそらくそれと、商店店主の「妹にはさせるなよ」の言葉がきっかけで祥太の心に変化が起きます。
以下、ネタバレあり感想
治が足を怪我して働けなくなったり、勤め先の経営不振から信代がリストラされたり、祥太は治に不信感を持ったり、リンは失踪から数ヶ月してやっと事件沙汰になりTVで顔写真つきで報道されたりと、歪ながら家族の生活は続き、全員で海に出かけます。
海ではみんな笑顔で、幸せな家族に見えます。
5人が海で遊ぶのを浜辺で見守る初枝。
それが幸せのピークだったかのように、海から戻ったある朝、初枝は息を引き取ります。
崩壊の始まりです。
汗だくで床下を掘り、初枝を埋める治と信代。
何食わぬ顔で初枝の年金を引き出したり、家捜しをして初枝のへそくりを見つけ出し喜んだりします。
「お婆ちゃんも一人で死ぬよりよかったでしょ」とか言ってしまう信代。
万引き常習なスーパーに行った祥太とリン。
祥太はリンに「お前は(万引き)するな」と言いますが、家族に認められたい、家にいてもいいと許されたい(強要されたりはしていないのですがそう考えてしまった)リンは明らかにポケットに入らない大袋のチョコレートをバレバレに万引きしようとします。
祥太は店員の目をリンから逸らそうと、これまたミカンがゴロゴロ入った大きな袋を抱えてスーパーから逃走。もちろん店員にばれて追いかけられます。
子どもの足だしミカン重いし絶対絶命ですがミカンは放しません。
結局店員に挟み撃ちされ、逃げ場のなくなった祥太はガードレールを飛びこえ数メートル下に落下。病院に運ばれます。
治と信代は一度病院に駆けつけますが、詳しい話を聞きたいという警察官を「子どもを家に残してきたんで!すぐ戻りますから!」と必死でかわし家に戻り、その夜「祥太は後で迎えにいくから」とリンを言い含め4人で夜逃げをしようとしますが…。
擬似家族の絆と崩壊~余罪いろいろ~
前半からほのめかされているんですが、リン以外の子どもー亜紀と祥太も血の繋がった家族ではなかったです。
リンと同じように祥太も誘拐(パチンコ屋の駐車場に停まっていた車から連れ出したと言っていたので、「放置されていた子どもを助けた」みたいな認識なのかも)された子どもで、亜紀は信代の妹ではなく、初枝の元夫の浮気(再婚)相手との間に産まれた息子の子ども。どうやら家族と折り合いが悪かった亜紀に初枝が「一緒に暮らそう」と声をかけた模様。亜紀の風俗の仕事の源氏名「サヤカ」は本当の両親の元で屈託なく暮らしている妹の名前でした。闇が深い。
そのことを知っていて亜紀の両親に「上のお嬢さんはなにしてるの?まぁ海外留学…それはいい、それはいいですねぇ…」と微笑んでいた初枝お婆ちゃんも業が深い。
ただ、疑似家族のもとで亜紀もリン本当の家族よりは絆強く、本当の家族といるよりも笑顔は多く生活していたのだと思います。祥太は本当の両親のこと覚えてないそうなのでわかりませんが、パチンコ屋の駐車場で車内放置されていたとのことだし…。
夜逃げは失敗し、治と信代は捕まり、亜紀とリンは保護されます。
そこで亜紀は治と信代が過去に殺人を犯していたこと(痴情のもつれが原因)、初枝が自分の両親から毎月お金を貰っていたことを知りショックを受けます。
事情聴取で家族の不利になるようなことを言わないようにしている祥太に「あの人達は君を追いて逃げようとしてたんだ。本当の家族はそんなことしない」と容赦ない警察官。
家族とは母親とは
信代は前科のついている治をかばうため「全部一人でやった」と供述し、死体遺棄については「捨ててない。捨てられたものを拾っただけ」と開き直ります。
「(前の殺人は)正当防衛だから。殺さなきゃ殺されてた」とも。
「(万引きは)店が潰れなきゃいい」というのも合わせて信代の本音なんだと思いますが、強気な信代の言葉を抉る言葉をこちらも警官(池脇千鶴)がめちゃくちゃ繰り出してきます。
「自分がこどもを産めないから誘拐したんでしょう」
「子ども達に自分のこと何て呼ばせてたの」
「子ども達はあなたのこと何て呼んでたの」
ここで、祥太とリンに「お母さん」と呼ばれたことがなかった信代が初めて涙を流すのですがー…じわじわと、本当にじわじわと、拭っても拭ってもじわじわと出てくる信代の涙が見ていて痛い。
「じゅりちゃん(=リンの本名)は本当のお母さんのところに戻りたいと言った(※言ってません)」
「あの子はそんなこと言わない」
「子どもを産めば母親になれるんですか?」
「産まなきゃなれないでしょう」
信代は祥太とリンを殴ったりアイロン押し当てたりせず食事を出し、無責任ではあるけれど愛情は持って接してたんですよね夜逃げで置いていこうとしたけど。
事情はどうあれ誘拐や死体遺棄という罪を犯した信代に容赦はしないのは当然ではあるんですが「産まなきゃ(母親に)なれない」は重いわー…。
そしてリン(本名じゅり)は育児放棄+虐待の合わせ技をもつ本当の母親の元に戻されます。イカンやろ。
「両親が子どもを殺したんじゃないか?」と疑っていたマスコミも一転、両親に同情的な報道をしていて何だかなぁという感じです。
救いはこどもたち
祥太は同じ年頃の子どもが数人いる施設に行くことになり、学校にも通えることになりました。
擬似家族がバラバラになって数ヵ月後、雪の日に祥太は治の元を訪れ信代と面会します。
「国語のテストで8番をとった!」など祥太の学校での様子を聞き和やかな雰囲気でしたが、信代は祥太に「祥太を見つけた場所・祥太が放置されていた車の特徴」などを教え、「本当の両親を探すこともできる」と告げます。治に「私たちじゃ駄目なんだ」とも。
祥太はそのまま治の家に泊まり、家族として暮らしていた時のようにカップラーメンにコロッケを乗せて「美味しい」と食べます。
「こうやって食べると美味しいな、あ、俺が教えたのか!」と楽しそうな治。
事情聴取で警官に「なぜ万引きを子どもにやらせたのか」と問われた時に治は「これしか教えてやれないから」と答えていたんですが、万引き以外にもコロッケ オン カップラーメンを教えてあげられてました。
ひとつの布団に背中合わせで眠る夜、祥太は「あの時、わざと捕まった」と告白します。理由は言わず、治も問いただしたりせず「そうか」とだけ返します。
翌朝、一人バスに乗り施設へと帰っていく祥太を、治は「祥太!祥太!」と追いかけますが祥太は振り返りません。
また、母親の元へ戻ったリン(じゅり)ですが母親は相変わらず育児放棄の様子。
擬似家族に切ってもらった髪が少し伸びボサボサになってきたリンは寒空の下、また団地の廊下に放置をされ初枝に教えてもらった童謡を歌い一人遊びをしています。
ただ理不尽に「ごめんなさいは?」と母親に脅されてもリンは謝らず、「お洋服買ってあげるからおいで」と言われても付いていかなくなりました。
映画のラストはリン(じゅり)が団地の廊下から、ひとり外を見つめるシーン。
とりあえず子どもたちは大丈夫かもしれない…大丈夫でいて…と切に願う。
登場人物が自分の気持ちを語らず、少ない台詞と、表情から観客側が想像をしなければならないのでしんどかったです(幸せな内容なら想像も苦にならないけど、この映画は誰の気持ちを想像しても苦しい)
万引き家族は偽者家族で、万引き以外にもとんでも家族だった訳ですが、初枝おばあちゃんは何だかんだで家族に囲まれて歪な形だけど幸せだったんじゃないかなぁと思います。埋められちゃったけど。